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東京地方裁判所 昭和56年(ワ)6911号 判決 1984年7月10日

原告 杉山栄

右訴訟代理人弁護士 佐々木元雄

同 井手總

被告 パーフェクトリバティー教団

右代表者代表役員 橋本清太

右訴訟代理人弁護士 洗成

主文

一  被告は、原告に対し、別紙物件目録(二)記載の建物を収去して別紙物件目録(一)記載の土地を明渡せ。

二  被告は、原告に対し、昭和五五年一月一日から右明渡しずみまで月金三〇〇〇円の割合による金員を支払え。

三  訴訟費用は被告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

主文同旨

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は、原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告は、訴外御木道正(以下「御木」という。)に対し、昭和二五年一月一日、別紙物件目録(一)記載の土地(以下「本件土地」という。)を、2の建物売渡に伴い、非堅固建物所有を目的として、期限の定めなく賃貸し(以下「本件賃貸借契約」という。)引渡した。

2  原告は、御木に対し、そのころ、本件土地上に存し原告の所有していた別紙物件目録(二)記載の建物(以下「本件建物」という。)を売渡した。

3  御木は昭和五一年九月四日死亡し、訴外小林一日女(以下「小林」という。)及び訴外村上政敏(以下「村上」という。)が本件建物及び本件土地賃借権を相続した。

4  小林及び村上は、被告に対し、昭和五三年七月一日、本件建物及び本件土地賃借権を裁判所の許可を得て売渡した。

5  原告は、被告に対し、昭和五四年六月一八日付の内容証明郵便で本件賃貸借契約の更新を拒絶する旨の意思表示をし、右書面はその頃被告のもとへ到達した。

6  右更新拒絶の意思表示には以下の通り正当事由が存する。

(一) 原告は老齢であり、本件土地による地代以外には収入がなく、生活は極めて苦しい状態にある。本件土地にビル建築をしてテナントを入れ、又は、駐車場として使用して自活の方途とする必要がある。

(二) 本件建物は、五〇数年前に建築した木造建物であり、朽廃の時期が迫っており、全体として改築の必要がある。

(三) 被告は、本件建物を被告教団関係者の宿泊所として利用すべく訴外山田千代子(以下「山田」という。)に無償で貸与しているが、その利用は極めて少ない。

(四) 被告の後記二の4(一)ないし(三)の主張事実はいずれも否認する。

7  昭和五四年一二月末日の経過で本件賃貸借契約は期間満了により終了した。

8  昭和五五年一月一日以降の本件土地の賃料相当額は月金三〇〇〇円である。

よって、原告は、被告に対し、本件賃貸借契約の終了に基づき、本件建物を収去して本件土地を明渡し、昭和五五年一月一日以降右明渡しずみまで月金三〇〇〇円の割合による賃料相当損害金を支払うよう求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1ないし4の事実は認める。

2  同5の事実は争う。

3  同6の事実は争う。但し、(三)のうち、被告が本件建物を被告教団関係者の宿泊所として山田に無償で貸与していることは認める。

4  (正当事由に関する被告の主張)

(一) 本件建物は、昭和二四年以来山田がここで被告教団の布教活動をしてきたものであるところ、昭和五九年末には同人から明渡をうけて、被告教団がその布教所として使用することになっており、本件土地は布教上の拠点として重要である。

(二) 被告は、本件建物を譲受けるにあたって相当期間使用できることを予測して相当の対価を支払ったものであり、取得後僅か数年で明渡すことになると被告の蒙る損害は莫大である。

(三) 本件建物は、本件土地と被告所有地の二筆の土地にまたがって建っている一棟の建物であり、本件建物を収去することになると、被告所有地上に残存する部分のみでは建物としての効用を全く喪失し被告の損失は甚大である。

第三証拠《省略》

理由

一  請求原因1ないし4の事実はいずれも当事者間に争いがなく、これらの事実によれば、本件賃貸借契約は、借地法二条一項本文により、昭和五四年一二月三一日に期間が満了することとなる。

二  次に、《証拠省略》によれば、原告が被告に対し、昭和五四年六月一八日頃被告に到達した内容証明郵便で本件賃貸借契約の更新拒絶の意思表示をしたことを認めることができる。

三  そこで、原告の被告に対する右更新拒絶の意思表示に正当事由があると認められるか否かについて検討する。

1  《証拠省略》を総合すれば以下の事実が認められる。

原告は明治三六年生まれで、昭和五年生まれの次女の喜美栄と共に、本件建物の東側に一棟をなして隣接する原告所有地上の建物(以下「原告所有建物」という。)に同居し、喜美栄の会社事務員としての月収一〇万円余りによって生活している。そして原告は、本件土地及び原告所有建物とその敷地以外には資産を持たず、今後の生活のために、本件建物及び原告所有建物を取り壊して敷地を駐車場にする計画をたてている。本件土地及び原告所有建物の敷地の合計面積は七六・八五平方メートルで、本件土地周辺地域は、中低層店舗及び事務所等の建ち並ぶ普通商業地域である。

右認定の本件土地の面積、地域の状況からすると、駐車場の計画は実現不可能ではないと考えられる。

なお、被告が昭和五三年に本件建物及び本件土地賃借権を譲受ける際に、原告は金二〇四万円の給付を受領し、賃料は月金一万五〇〇〇円に増額することとされたが、この事実は、現在の原告の生活状態を左右するものではない。

2  《証拠省略》を総合すれば以下の事実が認められる。

本件建物は、昭和三年築木造亜鉛メッキ鋼板葺一棟二戸建の一戸で、原告所有建物と一棟をなしている。そして、隣接する被告所有の木造亜鉛メッキ鋼板葺二階建旅館(延床面積一〇七・四三平方メートル)とともに一体的に利用されている。

本件建物は数度改築され、維持管理も良好であるため、構造材のゆがみ等はみあたらず、壁に多少漏水や亀裂が見られる程度で、比較的良好な状態にある。

原告所有建物は、柱・床にゆがみが生じ、建具の開閉も不都合になっており、通常の修繕を施す必要がある。

以上認定のとおり、本件建物は隣接する被告所有の旅館と一体的に利用されているが、本件建物なくしては右旅館の効用が全く失われると認めるに足りる証拠はない。

3  被告が本件建物を被告教団関係者の宿泊所として利用するため山田に無償で貸与していることは当事者間に争いがない。

そして、《証拠省略》によれば以下の事実が認められる。山田は、夫が被告教団の関係者であったことから、被告教団の二代目教主の実弟の御木が買受けた本件建物に入居して旅館を経営してきたもので、その後本件建物が被告の所有となった現在においても同人が従前どおり使用している。

旅館経営による収入はすべて山田が取得し、山田は被告に対して信者としての報奨金は支払っているが、本件建物の賃料は支払っていない。本件建物は、当初は教団関係者の宿泊施設として利用する計画であったが、現在はその利用客は月平均三、四名程度である。

被告が昭和五三年本件建物を購入した理由は、御木が多額の借財を残して死亡し、同人の相続人である小林及び村上から被告に対して買取りの要請があったことによるものであって、自ら使用する必要があったわけではなかった。その際、被告は小林らに対し相当の対価を支払っている。

山田は被告教団の補教師として本件建物で教団の布教活動に従事してきたが、被告が自ら使用する必要が生じた場合にはいつでも明渡す旨被告に約していた。

本件建物は、水道橋所在の被告教団千代田教会の所轄であるが、本件建物周辺に数十世帯の信者があることから、被告は、昭和五九年から本件建物を日本橋地区の布教所として利用する計画を有している。

4  以上認められる事実を総合して正当事由の有無を検討すると、まず、本件土地を自ら使用する必要性は、原告において被告に勝るというべきである。原告はその年齢及び経済状態からいって本件土地を利用することが唯一の生活安定の方途であると認められるのにひきかえ、被告にとっては、その取得時のいきさつからして必ずしも本件土地の必要性が高かったとは言えず、現在も同様と考えられ、また将来の布教所としての必要性についても、必ずしも本件土地に執着しなければならないほど切迫した事情を見出すことはできない。

更に、本件建物と一棟をなしている原告所有建物は相当老朽化していること、また、被告の本件土地に係る出費及び隣接する被告所有建物の効用の減少については、別途建物買取請求権の行使によりこれを補うべきものであることもあわせ考慮すると、結局本件更新拒絶の意思表示には正当の事由があるものと認めるのが相当である。したがって、本件土地賃貸借契約は、昭和五四年一二月三一日の経過をもって期間満了で終了したものというべきである。

四  昭和五四年一二月末日は既に経過し、昭和五五年一月一日以降の本件土地の賃料相当額が月金三〇〇〇円であることは被告において明らかに争わないからこれを自白したものと看做す。

五  よって原告の本訴請求は理由があるからこれを認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 大前和俊 裁判官 髙橋祥子 喜多村勝德)

<以下省略>

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